協議会では今、次の5年間のがん対策推進基本計画を策定するべく、各テーマについて順次ヒアリングと討議がおこなわれています。
今日のヒアリングのテーマは、以下のとおりです。
- サバイバーシップ・経済負担について(参考人:桜井なおみさん)
- 就労支援について(参考人:高橋都先生)
- がん予防・検診について(参考人:園尾博司先生、中山富雄氏、厚労省総務課生活習慣病対策室)
サバイバーシップについて
がん罹患をきっかけに、およそ3人に1人が異動・転職していること、4割の人が診断後に収入減を経験していることは、まだまだ知られていないと聞きます。そんななか、桜井さんと高橋先生からは、非常に説得力のある力強いご意見が次々に提示されました。
私がはじめて「サバイバー」という言葉を聞いたとき、正直違和感がありました。
あふれるカタカナ語をまた増やさなくても…と思ったり。
「サバイバー」と言われると、「無人島でのサバイバルレースを生き残った人」みたいなイメージを持つ方が少なくありません。「『がんから奇跡の生還を果たした人』が『サバイバー』なのでしょう?」と。「わたしは再発してるから、転移してるから、サバイバーじゃないわ」と。
でも、1986年にアメリカのNCCSがうちだした「キャンサー・サバイバーシップ」という概念は、そういう意味とは異なります。
- サバイバーは、がんの告知を受けた個人がその生涯を全うするまでを意味する。
- その家族、友人、ケアにあたる人々なども、その影響を受けるので、彼らもサバイバーに含まれるべきである
(第27回協議会資料の資料5より)
LIVESTRONGでも、サバイバーシップを次のように解説しています。
LIVESTRONGのガイドブックによると、がんと診断された人のほか、その愛する人たち、友人たち、世話をする人たち、及び支援を行う人たちの全てを含めて「サバイバー」と呼んでいます。「サバイバーシップ」は、がんの診断を受けた時から始まり、治療中及び治療後も継続します。サバイバーシップの重要課題は良質の医療を受けること、健康的な生活を送ること、そして治療による後遺症に対処することです。つまり、 "survive"という言葉は、がんの診断を受けた時から、その事実を背負いつつ「生き延びよう」「生き続けよう」とする努力・思いを指しているのだと、私は受け止めています。
誰が生き残ったかじゃない。生還したかじゃない。人生を揺るがす出来事をどう乗り越え、生きていくかということなのでしょう。
「がん患者」が経験する痛みは、医療で解決がはかられる身体的なものだけではありません。精神的な痛み、そして何より社会的な痛みをとりあげ、解決していくには、「サバイバー」という概念が欠かせないのだと思います。
というわけで、「サバイバー」を翻訳する場合も、「生還者」とは訳さないでくださいね。
かといって、コレ!という訳語がなくて悩ましいところですが、あえて訳すとしたら、「がん経験者」かなぁと仲間内では話しています。
がん検診について
続いてがん検診のヒアリング。
ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、がん検診の混乱ぶりが露呈されたように思いました。
まず、川崎医科大学の園尾先生から、「我が国の乳がん検診」について。
(第27回協議会資料の資料7)
USPSTFの推奨変更にまつわる各種データも提示してくださって、今何が論点になっているかを解説してくださり、争点になっている40代の検診に今後超音波検診を導入していく可能性について触れられました。
視触診単独では死亡率を下げる根拠なしとされている点にも触れられましたが、これが現在、乳がん検診の実施にあたって大きな負担になっていることは、あまり論じられませんでした。
今、国の指針では、「視触診+マンモ検診」が勧められています。
そのため、マンモグラフィのある施設がないような地区をマンモ検診車で回ろうにも、では視触診を行う医師はどうするかが問題になります。視触診を行える医師を確保するだけで大変だとも聞きます。
受診者が、開業医のもとで視触診、検診センターでマンモと、2度足を運ばなければならない自治体もあります。
視触診をどうするのか、超音波検診を導入するのか否か。このあたりは、現在、国立がん研究センターで乳がん検診のガイドライン作成会議が開かれていますので、そちらで科学的根拠にもとづく判断が下されるものと思います。ガイドラインは、2013年春公開の予定だそうです。
(http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/nyugan.html)
続いて、大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課の中山富雄課長から、「地域でのがん検診の取り組みの実情」が報告されました。
(第27回協議会資料の資料8)
日本のがん検診は、今、市町村の住民検診と、職域における検診と、個人で受ける人間ドックなどの3本立てになっています。
それぞれがバラバラ。特に職域検診と個人検診はブラックボックスとも言われていて、どのような検診がどのように行われているのか、ほとんど把握されていません。
そんななか、市町村検診を充実させようにも、対象者の選定からして難しい現状が報告されました。
がん検診では、コール・リコール・システムといって、対象者を特定して名簿で管理し、個別にお知らせを送って、受診していない人には再度アプローチするような方式が受診率向上に役立つと、研究により実証されています。
でも、住民全体が検診の対象者と考えて全員に個別受診勧奨をしたところ、「職場で受けているのに手紙を送ってくるのは税金の無駄遣いだ」と大量にクレームが来たそうです。
マンモグラフィ検診実施機関が都市部に集中していることも報告されました。
比較として、アメリカ・テキサス州の各郡のマンモグラフィ配備状況が紹介されていたのが興味深かったです。郡内に撮影施設があるところでは、受診率67.8%なのに対して、ないところでは受診率38.6%……。当然といえば当然です。
市町村と、精密検査を行う医療機関と、検診実施機関の連携の悪さの話もありました。
大腸がんの検診実施機関として、小児科・耳鼻科の開業医の先生が申請している話も。
その後の質疑応答で、大阪府全体で見ても、受診率50%を達成できるだけの設備も予算もないという話も出ました。
なぜこんなことになってしまっているのでしょう。
どうも、しっかりした土台・基礎がないまま、建て増し建て増しでごまかしてきたツケがまわってきている気がしてなりません。
その意味で1つ気になっているのは、厚労省で設置されていた「がん検診に関する検討会」と「がん検診事業の評価に関する委員会」が、2008年3月1日に報告書が出されたのを最後に、まったく開催されていないことです。
(老健局の審議会・研究会等の一覧 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000am0d.html)
問題が山積みのがん検診、ぜひとも国がもっと積極的にリードしていっていただきたいところです。
上記の「がん検診事業の評価に関する委員会」が最後に出した報告書、「今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について」には、貴重な意見が満載されています。
現在、住民検診で使われているチェックリストも載っていますし、要精検率やがん発見率などプロセス指標の許容値・目標値も、ここに提示されています。
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0301-4.html)
2008年にこの報告書で提示された在り方が、その後どの程度達成されたのか、何が障害になっているのか、審議を継続しただきたいと心から思います。
ああ、なんだか書きたいことは山ほどあるのですが、うまくまとまらないまま、えらい長文になってしまいました。
とにかく!
がんで早すぎる死をとげる人を本気で減らすがん検診実現のため、受診率向上にとどまらない対策を望みますです!
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